楽な肺理学療法②( 訪問看護師さん対象: 吸引)

前回  「吸引のリスク」 や「 カテーテルで気管のどこまで吸引できるのか?」 や 「吸引する回数を減らすために、動くこと(mobilization) が大事」 という事を中心に話をしました

今回はその続きです

 

 

動く事による効果は以下の様なものがあります

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● 動くと当然安静時より代謝が増えるので換気量が増加します

● 動くことによって、神経系である脳幹網様体賦活系と刺激することになり、痰の移動に関わる繊毛の運動が良くなって、痰が出やすくなります

● あお向けで臥床している時に比べ、動いて姿勢を変えることで、横隔膜という呼吸に関わる筋肉の動きが良くなり換気量が増えます

● あお向けで臥床している時に比べ、動いて少しでも体を起こすと、血液が肺から足の方へ移動することで換気量が増えます

● 動くと重力の影響で、痰が出やすくなる体位ドレナージ効果が働きます

 

それぞれについて詳しく説明していきます

 

 

● まずは「運動と換気量の関係」から

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当たり前なのですが運動をすると代謝が増え換気が増えます

下の表は運動すると安静時の約4~5倍にもなります

 

極端な例ですけどね

 

運動すると換気量が増える事で主気管支より奥にあった痰が出てきやすくなる訳ですね

 

また寝ている状態から座る状態になるだけでも代謝が増えるので換気量は増えます

傍目からみたら単に寝ている人を起こしただけですが排痰を促すといった意味でこれも立派な肺理学療法です

 

 

 

● 動かすことの効果の2番目は、「覚醒度と繊毛運動の関係」

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健常者でも全身麻酔下で覚醒度が下がると繊毛運動が低下することが知られています

動く、あるいは動かされる際生じる感覚刺激は、脳幹網様体賦活系を刺激し、覚醒度を上げます

覚醒度が上がることで繊毛が活発に動き痰の移動がスムースになる訳です

 

 

 

● 3番目は「横隔膜 と 換気量 との関係」なのですが、まず 姿勢と横隔膜との関係 がわかった方が理解が進みやすいのでそちらから説明していきます

 

姿勢によって換気量は変わります

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この表はあおむけ向けで寝た時(背臥位;仰臥位)の換気量を100とした時の、いろいろな姿勢の換気量を調べたものです

プラスマイナス(±)の左の数字が平均値で右側の数字が標準偏差ですので、左側の数字(平均値)に着目してもらえたらと思います

結果から分かることは、あお向けで寝た時(背臥位)が1番換気量が少ない、という事です

 

 

なぜ背臥位(仰臥位)が換気量が少ないのでしょうか?

 

それは横隔膜の動きがかなり影響しているんですね

 

 

そこで横隔膜について詳しくみてみます

 

講義ではyou tubeの動画を使わしてもらいました

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元ネタはこちら

横隔膜の動きがとっても分りやすい動画です

この動画で分かっていただきたいことは、横隔膜が収縮すると空気が入ってきて、横隔膜が緩むと空気が出ていく、という事

 

 

横隔膜の動きを更に模式的にあらわすと

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こんな感じ

 

 

先ほどまでは座位(立位)での横隔膜の動きだったので、横隔膜は自由に動けていましたが、これがあお向けの姿勢(背臥位・仰臥位)になると、横隔膜に内蔵の重みが加わるため自由に動けなくなってしまいます

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横隔膜ってのは、お尻の方に動くことで用をなす筋肉なのに、あお向けで寝てしまうと、内臓の重みで頭の方に常に押し上げられてしまうんですね

つまり、あお向けの状態で呼吸をするためには内臓の重みを押しのける必要があるんです

それで座位や立位より換気量が少なくなってしまう訳です

 

 

でもなぜ呼吸する際に働く筋肉として外肋間筋などもあるのに、なぜ横隔膜ばっかり僕は言うのかといいますと

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横隔膜は呼吸に関してとっても効率のいい筋肉で、ちょっとお尻の方に動くだけで沢山の換気量を得ることができるからなんです

僕ら理学療法士が呼吸リハビリテーションで腹式呼吸の指導を患者さんにすることが多いのは、これが理由の1つでもあります

 

 

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動く(動かす)のが何故良いのかについて、上の3つについて言っていきましたが、まだまだあります

 

 

● 4番目の「肺に集まる血液を減らして換気量が増加」について説明するのですが、それを理解するためには姿勢と血液分布について理解するとわかりやすいので、まずはそちらから説明します

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黒い点が多いところが血液がいっぱいある所と思って下さい

あお向けの姿勢(仰臥位)では、内臓の集中する体幹に多く、かつ、重力の影響で背中辺りに多く血液がある事がわかると思います

そのあお向けの姿勢(仰臥位)からファーラー位や立位になるとどうなるのかといいますと、足の方に血液がいって胸のあたりがスッキリしているのが直感的に分かるのではないでしょうか

 

つまりあお向け(仰臥位)の状態では、座位や立位に比べて胸に余分に血がたまっている状態なんです

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つまり仰向けの姿勢(仰臥位)は、空気が本来あって欲しいスペースに血がたまっている状態です

 

仰臥位では、立位に比べて400ml も余分に血液が貯まっているといわれています

本来なら換気量を増やすのに空気があって欲しい所に血液が貯まっちゃっているんです

だから、仰臥位は立位や座位などに比べて、換気量を増やすのには不利な姿勢な訳なんですね

 

 

仰向けの姿勢(仰臥位)が換気を増やすのにどのくらい不利なのかが分りやすいグラフが下のスライドになります

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このグラフはいろんな姿勢の時のFRCをみたものです

FRCって何?という事ですが、日本語でFRCは機能的残気量といいます

 

「機能」とついているからには何らかの役割があるわけなのですが、その役割は簡単にいうと肺胞を膨らませている役割です

FRCが大きいと肺胞が大きく膨らんでいて、小さいとしぼんでいるといったイメージです

なのでFRCが大きいと換気量も多くなるという事です (FRCが病的に大きい肺気腫などは別です※)

※ 肺気腫では、肺胞の形を保つ肺胞壁が破壊されているため、肺胞の形を保つため余分に空気が必要となりFRCが病的に大きくなっています。肺胞をテントに例えると、テントの骨(肺胞壁)がないため、空気を多めに入れて無理やり膨らましてテントの形にしている状態です。

 

 

上のグラフを見ると立位や座位はFRCが50ぐらいあるのに、あお向け(背臥位)になると30近くまでストーンと下がっているのがわかります

つまり、あお向けの姿勢(背臥位)になると肺胞周辺にある血管が膨らんで、肺胞が膨らみたいスペースを埋めてしまい、肺胞がしぼんでしまったことを意味します

 

なので換気量を増やすには、肺胞が広がりやすい立位や座位があお向けの姿勢(背臥位)よりもすすめられます

 

 

 

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● では最後の5番目「体位ドレナージ効果」について説明していきます

 

 

簡単に言うと重力を使って痰を出しましょうということです

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吸引して体位変換した途端、ゴロゴロと貯痰留音が聞こえて、また吸引することはないでしょうか?

実はこの体位変換もちょっとした体位ドレナージ(プチ体位ドレナージ)なんです

 

次は体位ドレナージについて説明していきます

 

 

体位ドレナージ

 

 

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肺というのは主要な気管支の先に左右10個ずつ部屋があり、それが合わさったものです。

主な気管支にはそれぞれに名前がついていて、右B1、右B2・・・・・・、右B10といい、そのそれぞれの気管支の先にある部屋にも右S1、右S2……、右S10と名前がついています。

 

このBとかSはというのは、

気管支は木の枝みたいなのでBranchブランチ(枝)のB

肺区域はSegmentセグメント(区域)のS

からとっています。

 

 

体位ドレナージというのは、痰が貯まっている部屋(肺区域:S)を見つけて、その部屋に繋がっている気管支(B)を垂直にする事なんですね

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つまり、2時間おきの体位変換でゴロゴロいうようになったという事は、体位変換でたまたま痰が溜まっていた肺区域の気管支の方向が垂直になって、痰が出てきた、という事だと思われます

 

それを「たまたま」ではなく、「狙(ねら)って」やってみましょう!というのが体位ドレナージです

 

 

狙って体位ドレナージを行うためには、痰が溜まっている肺区域の気管支の方向がわからなければなりませんが、気管支はあっち向いたり、こっち向いたりしています

 

こんな感じ

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「X線写真」や「聴診」※ などによって痰が溜まっているだろう大方の肺区域Sがわかれば、気管支Bの走行を考慮した姿勢を取ってもらうで排痰を促せます

(特に訪問看護・リハビリ場面ではX線やCTなど使う事はできないため、痰のある場所を見つけるには「聴診」がとっても大事になってきます)

 

※ 聴診について知りたい方はコチラの記事を参照下さい!

 

 

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医療従事者が排痰を目的に、これらの体位をとってもらうことはいいとは思いますが、家族には普通に困難です

痰が溜まっている場所もわからないですし、このような姿勢をとってもらう事も大変ですし、そもそもこれらの姿勢をとってもいいかとどうかいう判断自体も難しいと思います

 

 

上の排痰体位よりも簡単な修正体位というものもありますが、それでも家族には難しいと思います

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しかし、痰が溜まりやすい場所というのがある程度決まっているのであれば、とるべき排痰体位も決まっていると思うので、事前に家族指導を行うのはアリかもしれません

 

 

そこで今回は在宅でもできそうな排痰体位を2つ紹介したいと思います

 

あくまで参考なので実施する前にはDrや医療関係者に相談してから行って下さい

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完全なうつ伏せ(腹臥位)ではないのですが、枕を使った前傾側臥位(シムス位)半坐位(ファーラー位)を組み合わせることで上記の排痰体位と同様な効果が得られたとする研究があります

 

体位が3つしかないので覚えやすいですね

ただ前傾側臥位の際に下にしている肩や骨盤に圧が強くかかりスキントラブルのリスクがあったり、その体位自体とってもいいか確認はDrに必要だと思われますので、事前に医療従事者に確認は必要だと思われます

また顔を下にするので窒息を本人や家族さんが怖がるかもしれませんし

 

 

2つ目

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この上の図の30°側臥位は褥瘡予防で昔から病院でされていることあり、今も病院で指導を受けてそのまま家でもされている方も多いかもしれません

排痰を促すのであれば30°では効果はあまりないため、60°にして角度を増やし、換気の悪い背臥位をやめて半坐位(ファラー位)にするという方法です

 

これなら比較的導入しやすいのではないかと言う事で紹介しました

ただこちらも60°側臥位の際に下にした肩や大転子に圧がかかりやすくスキントラブルとなる可能性もあるので、事前に医療従事者に確認は必要だと思います

 

 

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体位ドレナージの所でちょっと話が逸れましたが、動く(動かす)ことにより、上のスライドの5つの効果により吸引が可能な主気管支レベルまで痰を集めやすくなります

しっかり集めてから吸引する事で吸引回数が減らせる、という話をしてきました

 

 

今回の話のまとめ

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ゴロゴロというような咽頭ゴロ音(貯痰留音)がするから、反射的に吸引するのではなく、患者さんに動いてもらう(あるいは動かす)事で、吸引の回数を減らせる可能性があります

吸引の回数が減らせるから、患者さんも家族も私達医療従事者も楽ですよ、という話をしてきました

肺理学療法と言えば、スクイージングや呼吸介助を思い浮かべる人も多いと思いますが、患者さんに動いてもらったり、あるいは動かしたりする事も立派な肺理学療法(呼吸ケア)なんですよ、という事を最後に強調して終わりたいと思います

 

 

注意 (( この記事をご覧になっている方へ  ))

前回の記事にも書かしてもらった様に、エアウェイ(気道)を確保する目的での吸引に禁忌はありません。

患者さんが気道が確保できなく苦しんでいる状態でも、動いてもらってからの方がいいという訳では決してありません。

吸引の回数を減らすために、動かすあるいは動いてもらう事が効果的な事もあるということを知って頂きたくて今回書かして頂きました。

ご家族の方には沢山の医療スタッフが関わっていると思われますので、ご相談しながら行うことをお勧めします。

医療スタッフの方には、動かす事より安静が優先される場合もあると思われますのでDrに確認しながら行うことをお勧めします。

 

 

今回の記事が安楽な在宅生活や療養に繋がれば嬉しく思います

また今回の記事でおかしな所もあるかと思いますのでご助言等を頂けると助かります

 

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました

 

 

関連リンク

前回の記事はコチラ ⇒ ゴロゴロ(貯痰留音)するからといって反射的に吸引していないですか?

 

 

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参考・引用文献

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Comments
  1. さぬきんぐ
    • gyoukouseiranPT

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