ABCDEバンドルと維持期 (訪問看護・訪問リハビリ)

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はじめに

2/13.14の呼吸の講習会と先日の愛媛県理学療法士学術集会に行った時の復習の記事になります

今回も忘備録も兼ねて書いていますが、ぼくという主観がかなり入ったものなので、講師の先生方の趣旨とは異なりますのでご注意を

今回の内容は呼吸という限った分野ではなく、今のぼくの主戦場である維持期( 訪問リハビリ )にも関わる所と気付かされてたのでまとめてみました

在宅に関わる方の参考になれば嬉しいです

 

 

 

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ABCDEバンドルについて

ABCDEバンドルとは、2010年から言われ始めた人工呼吸器をつけている患者さんの管理方法の事で、予後に悪影響を及ぼす せん妄ICU神経筋障害(ICU acquired weakness, 以下ICU-AW) を防ぐため、ABCDE を頭文字とする管理をバンドル(束:たば)でやってみましょうという概念のことをいいます

 

せん妄とは、意識混濁に加えて幻覚や錯覚が見られるような状態。健康な人でも寝ている人を強引に起こすと同じ症状を起こす。ICUやCCUで管理されている患者によく起こる。急激な精神運動興奮(カテーテルを引き抜くなど)や、問診上明らかな見当識障害で気がつかれることが多い。 【 ウィキペデイア より引用改変 

 

ICU-AWとは、集中治療室に在室中に生じる神経筋障害。発生頻度は7日間以上の人工呼吸器装着患者で25〜33%、敗血症患者にいたっては60〜100%とも言われる。ICU-AWは多臓器不全、不活動、高血糖、ステロイド薬の使用、筋弛緩薬の使用が危険因子とされている。 【重症集中ケア V olume.14 N umbe r. 3 17 より引用改変】

 

 

先月の呼吸の講習会でも3人もの先生が繰り返し話されており、今回の高橋先生も取り上げられていました

結構重要な事みたいですね(・_・;)

 

 

 

ABCDEバンドル①

http://www.slideshare.net/yuichikuroki/ss-33566632 より引用改変

 

 

ABCDEバンドルの内容を簡単に言うと、目を覚まさせて(A)、自発呼吸を促して(B)、セデーション(鎮静)をコントロールして(C)、せん妄を管理しつつ(D)、早くからあちこち歩く事(E)を、多職種皆んなでやってみようという事

 

ABCDEバンドルがされる前は、目を覚まさせて(A)、自発呼吸を促して(B)、セデーション(鎮静)をコントロールする(C)までのABCバンドルでした

 

ここで大事なのは新たに加わったE(運動)で、ABCDをやってから最後にE(運動)という訳ではなく、初めからE(運動)もやっていきましょうというものです

これをすることで人工呼吸器に繋がっている期間を短くして、死亡率を低下させ、認知機能低下を予防し、 ADLを上げていくことができます

 

 

その大まかな内容
ABCDEバンドル②
第41回日本集中治療医学会学術集会教育セミナー記録集 より引用

 

 

SAT : 自発覚醒トライアルのことで、鎮静薬を中止あるいは減量して、自発的に覚醒が得られるか評価するテスト
SBT : 自発呼吸トライアルのことで、人工呼吸による補助がない状態に患者が耐えられるかどうか評価するテスト

 

 

ABCDEバンドルのメリット

ABCDEバンドル③

第41回日本集中治療医学会学術集会教育セミナー記録集 より引用改変

 

「A」の毎日の鎮静覚醒トライアル (SAT) の効果は、必ずしも鎮静剤を中断するだけでなく減量するだけでも、過剰鎮静が減少し様々な合併症の減少が期待できる

 

「B」の毎日の人工呼吸器離脱トライアル (SBT) により、人工呼吸期間の短縮ができる。さらに「A」と「B」を組み合わせることで、効果は相乗的に高まり、1 年死亡率を 14%減少

 

「C」の鎮静剤の選択により、せん妄のリスクを減少

 

「D」のせん妄モニタリングとマネジメントに関しては、ツールは主にCAM-ICUを用いる。せん妄の原因のうち医原性のものは医療者がコントロールし得る余地あり

 

「E」の早期離床については、ICU-AW の原因に医原性リスクが含まれている。つまりICU-AWの原因は、サイトカインだけで起こっているわけでなく、過剰鎮静、過剰な安静、血糖管理の失敗、コルチコステロイドの使用、筋弛緩薬などが原因で起こっている場合あり                【第41回日本集中治療医学会学術集会教育セミナー記録集 より引用改変】

 

 

 

せん妄の悪影響

ABCDEバンドルでは 「せん妄のリスクを減らすこと」 が大きな目的の1つですが、せん妄ってそんなに重要なのでしょうか?

 

そのせん妄の悪影響については詳しく記載されている論文(Soja SL, Pandharipande PP, Fleming SB, et al. Implementation, reliability testing, and compliance monitoring of the Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit in trauma patients. Intensive Care Med 2008; 34: 1263-8)を見つけたので紹介します

ICUにおけるせん妄がICU在室日数、人工呼吸器装着期間、入院期間、コストにとどまらず、ICU退室後あるいは退院後の認知機能、さらには死亡率にまで悪影響を与える

 

それで何とかして減らしましょう、という訳なんですね

 

 

 

ABCDEバンドルと維持期(訪問リハビリ)との関係

ABCDEバンドルは人工呼吸器管理下という急性期の事ですから、ぼくの臨床である維持期(訪問リハビリ)とは関係が少なそうですが、実は関係があるという事を今回教えられました

 

それは急性期での関わりが維持期まで影響を及ぼすという事

 

その急性期と維持期を繋ぐのがPICS(ピックス:集中治療後症候群)※ という考え方

PICSはPost-Intensive Care Syndromeの略であり、一言で言えば「ICUから生存退室した後の後遺症」のことである。ICUからの生存患者は長期的な認知機能や運動機能を悪化させる。入院、医療行為もまた侵襲であることを我々は認識しなければならない。 【EARLの医学ノートより引用改変】

 

長期的な結果(維持期)に影響を与えるのは疾患そのものによる侵襲だけではないという事です

 

 

それをよく示してくれている論文が以下の論文になります

以前のABCバンドルにE(運動)が加わり、世界中でABCDEバンドルがなされるきっかけにもなった論文です

 

 

世界中でABCDEバンドルがなされるきっかけとなった論文

Schwickert WD ,Pohlman,MC, Pholman AS et al: Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomized controlled trial, Lanset 373:187482,2009

(内容)
72時間以上の人工呼吸管理の104例(Barthel Index≧70、もともと自立レベルにあった人)に対して、毎日鎮静をきって早期離床(理学・作業療法)をした介入群49例と標準的なケアが行われた対照群55例との比較。

 

(結果)
介入群の方がせん妄期間が半分(中央値で介入群:2日、対照群:4日 p=0.02)になり、退院時の自立度は介入群の方が高かった(介入群:59%、対照群:35%)

 

上記論文からの引用改変

Early physical 3

このグラフの横軸は入院期間で縦軸はBarthel Indexの自立度を示しています

 

ここで着目して欲しいのは、「早く運動したから良かったね」という事だけではなく、ICUにいるだろう14日までの間の自立度に着目してもらうと、介入群も対照群もそんなに差がないのに、そこから一般病棟に移る頃(14日以降)になってくると自立度に大きな差が観られるようになっている所です

 

要するに急性期の関わりが以降の回復期、維持期に影響している訳です

この様な結果が出て急性期でのリハビリが大事だという事で、世界中でABCDEバンドルがされる様になったそうです

 

 

でも上のグラフを見ていて、みなさん不思議に思いませんか?

対照群も通常のリハビリはしている訳で、入院後100日経過しても差が縮まっていない事に違和感を感じないでしょうか?

 

確かにICU-AW(ICU神経筋障害)による筋力低下はあると思いますが、これに加えて認知の問題が大きく影響しているのではないか、とぼくは感じました

筋力低下が主要因なら入院期間が延びるにしたがい、介入群とのADL自立度の差が縮まる様に思います

このADLの差について先生の直接の言及はありませんでしたが、何よりこの論文を紹介した直後にOpeや麻酔を受けた事で生じる認知障害(POCD)の話をされていたため、認知の影響もあるんじゃないかと思うに至った訳です

 

POCDPICS(集中治療後症候群)の具体的な内容の事をいいます

 

 

 

POCDについて

POCDになってしまうと以下の図の様に生存率および就労率の悪化が観られます

POCD1

POCD2

上の図は、術後認知機能障害.合谷木 徹.Anesthesia 21 Century Vol.12 No.3-38 2010より引用

POCDのメカニズム自体まだよく分かっていない所が多い様ですが

先生によると 「手術で侵襲があると、まずその部位で炎症反応がおき、続いて記憶に関与する海馬でも炎症が強くなり、そこの神経細胞のミクログリアが過剰に活性化して放出されるサイトカインにより、アミロイドβの蓄積を除去しきれなくなって認知障害が生じるのではないか」 と言われていました

 

アルツハイマー病の原因もアミロイドβの蓄積って言われているので関連がありそうな印象

ミクログリア:小膠細胞。脳脊髄中に存在する神経膠細胞の1つ。マクロファージ様の食作用を有し、神経組織が炎症や変性などの障害を受けると、小膠細胞は活性化し、病変の修復に関与する。 【ウィキペディアより引用】

 

また「術前からしっかり運動していることがこのミクログリアの(過剰な)活動を抑制する? ため、術前からのリハビリテーションが大事」ということも言われていました

患者さんにとって術前と言えはぼくらの臨床である維持期でもあるため、普段の訪問リハビリで患者さんをいい状態で保っておく(=「虚弱:フレイル」を予防しておく)という事がPOCDの予防にも繋がるのではないか、と思われます

 

ここで急性期とぼくの臨床である維持期が繋がるんです

 

 

ただミクログリアの過活動と運動との関係が書かれた論文をネットで調べてみましたが、ぼくの力では見つけられませんでした(・_・;)

かなり新しい知見なのかもしれません

その様な事が書かれてある論文をもし知っている方がいれば教えて頂けると助かります

 

 

 

最後に、僕の臨床に新たな気付きを加えて頂いた先生方に本当に感謝いたします

最後まで読んで頂きありがとうございました

どこかの誰かの参考になれば嬉しいです

 

がんばっていきまっしょい!

 

 

 

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