COPDの患者さんは筋トレしないといけないのか?(呼吸リハビリテーション⑨)

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前回は「息苦しさを軽減するために体力をつける」という事で、1の「上手に食事をとりましょう!」について、主に栄養療法について話をさせて頂きました

今回は2の「手足の筋力をつけましょう!」について運動(運動療法)について話をしていきます

 

 

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なぜ筋トレをしないといけないのか?

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COPDの患者さんの筋肉というのは、長年COPDにかかる事で、全身の筋肉が「低酸素」「低栄養」「ステロイド」「炎症性サイトカイン」などにさらされ、通常の筋肉ではないと言われています

 

これは、海外でCOPDの重度の方に対して肺移植が行われ、肺は健康になった(呼吸機能正常)はずなのに、身体を思うように動かせない(最大酸素摂取量が予測値の40~50%程度までしか改善しない)事例から考え初められたようです

 

COPDの患者さんの筋肉は、通常は歩行などの低強度の運動でも乳酸が作られやすく、それが「息切れ」を引き起こしているのではないかということが言われています

 

注意して頂きたいのが乳酸は決して悪者ではないという事です

 

乳酸はタイプⅠ線維である赤筋のエネルギー源となる物質ですが、COPDの患者さんはこの乳酸を使う赤筋が少ないため有効利用できないんです

COPDの患者さんはこの乳酸をうまいこと使えないことが問題なんですね

 

 

 

それらの根拠としては以下の様な事が挙げられています

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●COPDが重度のため肺移植をした患者、肺には問題がないのにも関わらず、VO2maxが平均40~50%と低値であった(Richard Casaburi先生が書かれた論文「Skeletal Muscle Function in COPD」より)

●COPDの患者の外側広筋を筋生検した所、タイプⅠ(赤筋)よりタイプⅡ(白筋)が多く、好気性代謝機能低下、毛細血管密度も低く、酸素拡散能も悪かった

●COPDの患者は下肢に酸素供給が十分な時にも、乳酸アシドーシスになりやすい

●COPDの患者は酸素摂取速度が遅い

 

 

 

そのためCOPDの患者さんの「息切れを軽減する」ためにも、異常な筋肉を正常な筋肉に生まれ変わらせる必要がある訳なんです

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その手段が骨格筋トレーンング、いわゆる筋トレです

 

 

 

またエビデンス的にもCOPDの患者さんに対する下肢の筋トレは最高のエビデンスが認められています

あの気管支拡張剤と同じレベルです(GOLD)

COPDの患者さんにリハビリをしていて下肢の筋トレをしていなかったら、なんでしてないん!と突っ込まれるレベル

 

((注意))

ただCOPDの末期で不可逆的悪液質の状態にある患者さんの場合には、積極的な筋トレも栄養療法も不適なのでご注意ください

 

詳しくはぼくのコチラの記事を参照

COPDの患者さんにも積極的な栄養療法が適さない時期がある!(不可逆的悪液質) – ちんねんの徒然なる日記

 

 

ちなみに、さっきから言っている骨格筋とは、

動物の筋肉の一分類であり、骨格を動かす筋肉(wikipediaより)

僕らが普段言っている筋肉の事です

 

 

その骨格筋トレーニングで鍛えるのは、「筋力」 と 「筋持久力」 になります

それらの簡単な定義は下のスライドに様になります

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「筋力」も「筋持久力」も似たような名前なのですが、全然意味が異なります

筋力」の定義は、最大の力、瞬間的な力のことをいいます

一方「筋持久力」は、持続的な力を発揮し続けれる能力のことをいいます

 

 

 

そのため「筋力」、「筋持久力」の鍛え方も各々違うんですね

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上のスライドの様に使う重量 繰り返す回数 が違います

「筋力」を鍛えるためには、1回持ち上がるかどうか限界の重量(=これを1RM:ワンアールエムといいます)の60~90%の重さ10回程度

「筋持久力」を鍛えるためには、1RMの30~50%の重さ25~35回以上

これらの筋トレを週に2,3回、2ヶ月程度継続すると効果が現れるのではないかと言われています

 

 

しかし、上のスライドの使う重量や繰り返す回数は、あくまで一般論でありCOPDの患者さんに完全に当てはまるという訳ではありません

つまりCOPDの患者さんを対象に、骨格筋トレーニング時の使う重量や運動回数の検討を行っている研究が少ないからなんですね

COPDの患者さんを対象にした研究で、軽い重量でも頻回にすれば筋力アップできましたよ、という研究もありますし

 

 

COPDの患者さんのバックグラウンドが皆んな違うので、一般化しにくいじゃないかと僕は思っています

COPDの重症度、ステロイドの使用の有無や大小、栄養状態、血ガスの値なんかも皆んな違うでしょうし

 

軽い重量でも筋力アップが図れるのなら、患者さんのリスクの軽減やモチベーションの観点からも低負荷でした方がいいのではないか と言われています

特に病院じゃなく家でトレーニングをする場合、もしもの時の対応が遅れるためリスク管理の面でも、下のスライドの様に低負荷ですることをオススメします

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しかし僕が病院にいた時は、患者さんのモチベーションが高い場合、高負荷を狙ってしていました

その方が生理学的な効果が高いからです

病院にはDrもいましたので、もしもの時にすぐに対応できるというのが大きかったですね

 

 

 

どこの筋を鍛えたらいいの?

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人間の体には400個近くの体を動かす筋肉がありますが、どこの筋肉を鍛えていったらいいのでしょう?

 

 

それは普段の生活で使用頻度の高いの筋を鍛える事をオススメします

「骨格筋トレーニング」によって筋を生まれ変わらせることで、筋を動かす時に必要な酸素の量が減れば、息苦しさも軽減できるという事ですね

使用頻度が高い筋であればあるほど、その効果を実感しやすいのではないでしょうか

 

 

これから具体的な筋トレの方法について話をしていくのですが、その前に気をつけて頂きたい事があります

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それは、人によって病状が異なります

COPDと確かに診断されているかもしれませんが、心臓病なども持たれているのかもしれません

COPDでも病気の段階があり、ひょっとすると積極的な筋トレが進められない時期にあるのかもしれません

「運動」は「薬」と同じで、容量・方法が合っていればプラスになりますが、合っていなければマイナスになってしまいます

なので、1番あなたの身体について詳しくわかっている「かかりつけ医の先生」に「こういう運動をしてみようと思うのだけど、してもいいかどうか」をまず聞かれてみることをオススメします

 

 

 

実際の骨格筋トレーニングを紹介

 

足の筋肉を鍛える運動

 

1.重錘(おもり)を使った運動

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重錘で負荷量を調整

重錘はスポーツ用品店などで売っています

 

こんなの

重錘なので重量が分りやすいというメリットはありますが、重量の軽いものでも5000円近くします

なかなか気軽には買えないですね

患者さんの中には、トレーニングで徐々に重量を増やしていけれる事が、運動のモチベーションになる方もいらっしゃるので紹介しました

はっきり数字でわかるのでいい動機づけになっているのでしょうね

 

 

重錘をつかわない足の骨格筋トレーニングでお勧めの運動があるので紹介します!

ていうか、紹介させて下さい

 

それは「立ち座りの運動」になります

 

 

2.立ち座りの運動

この運動が、「椅子に座って呼気に合わせて4秒以上かけてゆっくり立ち上がって、呼気に合わせて4秒以上かけてゆっくり座る」運動です

 

なぜこの運動をお勧めするのかというと、普段の日常生活の中でよく使う動作でもありますし、これが安全にできない事で活動範囲が少なくなってしまう患者さん方が本当に多く観られます

つまりこの動作自体が安全にできる事で活動範囲が増える事で、最近話題のフレイルの予防にも繋がる優れた運動なんです

また口すぼめ呼吸」の呼気に合わせてゆっくり動くいい練習にもなります

 

加えてこの立ち上がり動作というのは「キング オブ 筋トレ」であるスクワットに近似した動作であるため、下肢だけでなく体幹などの全身の骨格筋トレーニングにもなります

もちろん1番鍛えたい足の筋肉に対する刺激も大きいです

ゆっくり動く事で筋への血流が制限され、筋を成長させるホルモンが出てきます

また僕の尊敬する筋トレ界の権威であり、ボディビルダーでもある東京大学の石井先生がお勧めしている運動でもある事も大きいです

 

 

【方法】

①両足を肩幅程度に開いて、手前に引きます

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足を前に出し過ぎると、つっかえ棒の様になって立ち上がりにくくなってしまうので、足は手前に引きましょう!

足は肩幅程度に開いておきます

 

 

②手すりを軽くつかみます

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できるだけ足の力を使うため、手すりは軽く持つように意識してみて下さい。理想は添えるだけ

 

 

③ゆっくりおじぎをして、できるだけゆっくりお尻を持ち上げます。太ももの筋肉が張るのを感じましょう!

手すりなしでも安定して立ち上がれる方は、太ももをつかんだ状態で立ち上がって、筋肉がピクッとするのを感じながら立ってみましょう!

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口すぼめ呼吸で「フゥー」と息をゆっくり吐きながら立ち上がります

 

 

④しっかり前を向いていい姿勢で立ちます (フィニッシュはしっかり!)

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動作の終わり(フィニッシュ)をしっかり意識することで、効果的に運動を行う事ができます!

このしっかり立った姿勢の時に息を整えましょう

 

 

⑤しっかりお尻を突き出す様にしてゆっくり座りましょう。この時にも太ももの筋肉のハリを感じながらすると、とっても効果的です

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お尻を後ろに突き出せば突き出すほど、足の筋肉を鍛える事ができます!

 

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座るときも口すぼめ呼吸でゆっくり息を吐きながら座って下さい

 

 

⑥いい姿勢で座ります (フィニッシュはしっかり!)

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動作の終わり(フィニッシュ)をしっかり意識することで、効果的に運動を行う事ができます!

 

立ち座りが安定して行えるのなら1回ごとに手すりから手を離す事をオススメします

その方が体を前にもっていく(前方へのリーチの)いい筋トレになります

 

またこの時に2~3回息を整えて(=呼吸調整して)から続けて立ち座りを行う様にして下さい

息苦しいからといって早く終わらせようとしないように注意

 

 

【その他の注意点】

今回の椅子からの立ち上がりでは手すりなどは引っ張っても動かない重たいもの置くなどして使って下さい

また手すりを使って立ち座りはできる人でも 「きつすぎる」 と感じる方は、椅子の座面を高くすると少し楽にできますので調整される事をおススメします

座面

 

 

【おまけ】

呼気に合わせた「立ち座り」についてまとめた配布用資料(PDFファイル)

 

 

3.手の運動

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病院にいた時ならセラバンドという弾性ゴムを使ってもらっていたのですが、在宅では自転車の使用済チューブを使う事が多いです

理由はステーション近くの自転車屋さんからご厚意で頂けるから

貰いたい放題です (^_^)

 

 

負荷量の調整は、チューブを長く持てば負荷量は小さいですが、短く持てば負荷量は大きくなります

重錘の様に数値で認識できないのがデメリット

患者さんのモチベーションが数値で分かった方が上がりそうな場合は、500mlのペットボトルに水を入れて簡易ダンベルにして使うこともありました

 

 

ちなみにこちらがセラバンド

色で伸びやすさ(負荷量)が変わります

自転車のチューブを長くしても強すぎると感じる方は、セラバンドの黄色あたりでちょうどいいのではないでしょうか

 

 

 

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これまで2の「手足の筋力をつけましょう!」について話をしてきました

 

今度は最後の3の「全身持久力をつけましょう!」について説明していこうと思います

     つづきはコチラ⇒ 「筋持久力」と「全身持久力」との違いはわかりますか?

 

 

 

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・9月22日11月の受験旅行準備(飛行機とホテルの手配) 
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・8月26日講習会を終えて、今治へ帰ります 
・8月26日昨日は講習日初日(講習会参加時の注意点など) 
・8月24日今から講習会を受けに東京へ出発 
・8月24日講習会のある東京でのスケージュールを立ててみる 
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参考・引用文献

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