横隔膜の同定には打診!(呼吸リハビリテーション⑤)

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前回までは 「息切れを軽く」 するために「呼吸の仕方を工夫する」という事で、「口すぼめ呼吸」 や 「腹式呼吸」 について話させてもらいました

 

その中で「腹式呼吸」をぼくら医療従事者が患者さんに指導すべきか否かを判断するためには、「打診」で横隔膜 がしっかり動いているかどうかをみてから判断する という事を最後に書きました

今回はその「打診」について詳しく説明します

 

 

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基本的な打診方法から

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打診したい部位( 胸なら肋骨の上ではなく肋間 )に、非利き手(どちらでもいいそうです)の中指のDIP関節(遠位指節関節)をしっかり押し付け密着させます

そのDIP関節にめがけて、片手の中指(あるいは人差し指)の指先をスナップを利かせて叩きます

 

 

打診

フィットネスの勧め より引用・改変

 

スナップってなんだ?と言われるかもしれないので、どんな感じか下にGIFアニメを作ってみましたので参考にして見て下さい

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こんな感じ

分かりにくかったらスミマセン(・_・;)

 

 

 

打診した時にも聴診の様にいろんな音が聞こえてきます

 

その音の種類について説明

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打診音には、打診した場所の空気の含まれ度合いによって、清音(せいおん)濁音(だくおん)鼓音(こおん)と分類されます

 

実は家の壁とよく似ているんですね

ご自分の家の壁を叩いてもらうと分かりやすいのですが、壁でも後ろに木材などがない所では 「コンコン」 と乾いた音がしますが、壁のすぐ後ろに木材がある場合には「ドンドン」と少し鈍い音がします

壁の後ろに木材がないと釘はしっかり刺さらないので、この音の違いを利用して釘(くぎ)を打ったりします

 

 

 

身体も全く同じ

 

空気の多い肺などでは「トントン」と乾いた音(清音)が聞かれ、空気の少ない肝臓などの臓器や脾臓は「ドンドン」と鈍い音(濁音)が聞こえます

特に空腹時の胃だっだり、ガスが溜まっている大腸あたりでは太鼓の音にように「ポンポン」と高い音(鼓音)がするんですね

 

 

その音の違いを利用して横隔膜の位置を見つけましょうという事です

難しい言葉でいうとこれを横隔膜の同定(どうてい)といいます

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横隔膜の上には空気が多い肺があり、下には空気の少ない肝臓や脾臓などがあります

そのため横隔膜を境に上は清音、下は濁音が聞こえる訳です

 

 

 

では実際に横隔膜の位置を見つけにいきましょう!

 

 

まず患者さんに座ってもらい、後ろから打診を行います

以前に説明したように下葉の下端は第10肋骨付近なので、そのあたりに横隔膜があるんですね

 

ウエスト(腸骨稜)に手を押し当てて、頭の方にずらしていった時に始めに当たる骨性のものが第10か11肋骨であるため、それを辿って背部の第10肋骨を見つけます

第11肋骨は遊離肋であるため、骨の先を辿っていけば「あら、(骨が)ない」となってわかると思います

 

その付近を叩いていきます

第10肋骨同定

下葉の下端

 

 

A

 

 

まず患者さんに息をしっかり吸ってもらった所で息を止めてもらい、濁音と清音との境目と見つけます(図のA)

今度は、息をしっかり吐いてもらった所で息を止めてもらい、濁音と清音との境目と見つけます(図のB)

 

このAとBの間が呼吸によって横隔膜が動く範囲を示しています

これが2横指程度あれば腹式呼吸の指導OKという事ですね

 

どうでしょう?

1つの目安になったでしょうか?

横隔膜の動く範囲としては、大体2横指(4cm前後)が普通ですが4横指(8cm前後)も動く人もいます

 

ちなみに胸部X線写真での横隔膜の位置は、第10肋間と言われています

 

 

注意して頂きたい事

最後にここで注意して頂きたいのは、2横指程度動く人はあくまで腹式呼吸の指導がOKという事で、動作時にもひょっとしたら腹式呼吸が使える可能性がある という事が分かっただけなんです

座位ではすでに内臓が下にどいてくれている状態なので横隔膜が非常に動きやすい状態にあります

つまり難易度が1番低いんですね

皆さんもやって頂いたら分かると思いますが、安静時座位で腹式呼吸をするのと、立位で動きながら腹式呼吸をするのとでは難易度が全然ちゃいます

 

結構むずいです

 

なので座位で2横指程度動く人に、動作時にも腹式呼吸をする事にチャレンジする価値は十分あると思いますが、その困難さから強く勧めすぎるのもよくないとぼくは思います

 

【追記2016/2/16】

先日の宮川先生達の呼吸の講習会でもCOPDの患者に対する呼吸法の指導で「腹式呼吸」は「口すぼめ呼吸」より優先順位は低いという事を言われる先生が何人かいらっしゃいました。何か根拠があって言われたと思うのですが聴き逃してしましました(・_・;)。エビデンスがでているのかもしれませんね。知っている方がいたら教えて下さい。

【追記 終わり】

 

 

またCOPDの重度の方(特に肺気腫)以外で横隔膜の動きが少ない場合というのがあります

それは痛みによって呼吸が抑制されていたり、腹水の貯留腫瘍などの原因の場合など

 

横隔膜の動きに特に左右差が観られる場合には、それらの病変が隠れていることがあるので気に留めて置くことをオススメします

 

 

打診のエビデンス

ぼくの記事でも紹介している「運動療法エビデンスレビュー」から打診に関わる記載があったので最後に紹介します

 

呼吸器症状を認める患者において、片側の胸郭で濁音を認めた場合の胸水貯留に対する診断精度は、感度89%、特異度82~99%、陽性尤度比(※1)4.8、陰性尤度比(※2)0.1であった[Ann Emerg Med 44:S112,2004]

「運動療法エビデンスレビュー」P140より引用 (※1)と(※2)はぼくが加筆

 

※1:陽性尤度比(ようせいゆうどひ)とは、病気のある人が病気のない人よりも何倍検査で陽性となりやすいかを示す値。これが高い検査ほど検査前後のオッズを大きく変化させることができるので診断価値が高い検査。

※2:陰性尤度比(いんせいゆうどひ)とは、病気のある人が病気のない人よりも何倍検査で陰性となりやすいのかを示したもの。これが低い検査ほど除外診断に有用。

 

 

 

 

「呼吸リハビリテーション」の内容から結構話が脱線しましたが、この辺で「打診」についての話は終わろうと思います

 

もっと打診について知りたい方はこちらの文献をお読み下さい

 

 

 

腹式呼吸との関わりで打診について話をしてみましたが、ここで適応が結構難しい腹式呼吸についてのエビデンスについてまとめてみようと思います

 

結構否定的なものが多いです

 

 

腹式呼吸のエビデンス

・COPD患者を対象とした腹式呼吸の効果としては、腹式呼吸を練習させる事は単純にゆっくりとした呼吸パターンや口すぼめ呼吸などによって得られる効果以上の利益がない(Dechman G,wilson CR:Evidence underlying breathing retraining in people with stable chronic obstructive pulmonary disease. Phys ther 84:1189-1197,2004)

・COPDの重症例ではかえって呼吸困難感が増悪(Goselink RA et al:Diaphragmatic beathing reduces efficiency of breathing in chronic obstructive pulmonary disease.Am J Respir Crit Care Med 151:1136-1142,1995)

 

↑ これらは腹式呼吸の評価方法を教えて頂いた千住先生のやり方で、打診によって横隔膜がちゃんと動かせる患者を選べば(腹式呼吸の適応となる患者を選べれば)、こういう結果に結びつきにくくなるのではないかとぼくは思っています

 

 

 

ここで簡単にまとめますと

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今まで①の「呼吸の仕方を工夫する」という事で 「口すぼめ呼吸」 や 「腹式呼吸」 について話してきました

では次から②の「息苦しい動作をする時のコツを知る」について説明します

これは認知面がしっかりしている方には、すぐに息切れを軽減するのにとっても有効じゃないかとぼくが実感している方法です

 

つづきはコチラ ⇒ 息苦しい動作をする時のコツ

 

 

 

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呼吸療法認定士 受験記 (申し込み ~合格まで )

・(5年後)新しい3学会合同呼吸療法認定士の認定書が届いたよ 
・(5年後)呼吸療法認定士の更新申請をしてみた!
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・12月31日呼吸療法認定士試験の勉強方法 
・12月24日3学会合同呼吸療法認定士 合格しました(≧∀≦) 
・12月22日あと数日で、呼吸療法認定士の合格発表 
・11月18日呼吸療法士認定試験やっと終わりましたヽ(゚∀゚)ノ 
・11月17日試験会場まで下見に行ったら迷子に! 
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・11月2日先ほど受験票が届きました(゚∀゚) 
・9月22日11月の受験旅行準備(飛行機とホテルの手配) 
・9月15日しばらく放置してましたが(勉強の進捗状況など) 
・8月27日これから認定講習会を受講される方はICレコーダーを持っていくべし!
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参考・引用文献

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